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トヨタの二刀流戦略:EVシフトと水素社会への挑戦

世界最大の自動車メーカーが挑む電動化の大転換

トヨタ自動車は年間販売台数1,000万台超を誇る世界最大の自動車メーカーであり、ハイブリッド車(HV)の先駆者としてプリウスで自動車業界に革命を起こした。しかし、世界がBEV(バッテリー式電気自動車)へとシフトする中で、トヨタのEV戦略は「遅れている」との批判にさらされてきた。トヨタはこの批判に対し、EVと水素燃料電池車(FCV)の「二刀流」戦略で応えようとしている。

e-TNGA:EV専用プラットフォームの構築

トヨタは2022年にEV専用プラットフォーム「e-TNGA」を基盤としたbZシリーズの第一弾「bZ4X」を発売した。しかし、初期モデルはリコール問題や航続距離、充電速度で競合他社に見劣りし、市場での評価は芳しくなかった。この反省を踏まえ、トヨタは次世代EVプラットフォームの開発を加速させている。

2026年以降に投入予定の次世代EVは、現行モデルから大幅なスペックアップが計画されている。航続距離は800km以上、充電時間は10分で80%まで回復(全固体電池搭載モデル)、製造コストはbZ4X比で半減——これらの目標を実現するために、トヨタは車両構造から生産方式まで根本的に見直す「ギガキャスト」工法やモジュラー設計を採用する方針だ。

350万台
2030年 EV販売目標
5兆円
電池関連投資計画
2050年
カーボンニュートラル目標

全固体電池:ゲームチェンジャーとなるか

トヨタのEV戦略の最大の切り札が全固体電池だ。現在のリチウムイオン電池が液体電解質を使用するのに対し、全固体電池は固体の電解質を用いる。エネルギー密度の大幅向上(航続距離2倍)、急速充電の高速化(10分以下)、高い安全性(発火リスクの大幅低減)、そして長寿命が期待されている。

トヨタは全固体電池の特許出願数で世界トップを走っており、2027〜2028年の実用化を目標としている。ただし、全固体電池の量産には克服すべき技術的課題が残っている。固体電解質と電極の界面における接触抵抗の低減、充放電サイクルでの劣化抑制、そして製造コストの低減が主要な課題だ。このバッテリー技術の競争は、EVの未来を左右する最重要テーマの一つである。

水素社会への挑戦:MIRAIとその先

トヨタが世界で唯一本格的に推進しているのが水素燃料電池車(FCV)だ。「MIRAI(ミライ)」は、水素と酸素の化学反応で発電しモーターを駆動する車両で、排出物は水のみ。航続距離は約850kmで、水素充填時間はわずか3分と、EVの充電時間問題を解決する代替技術として位置づけられている。

しかし、FCVの普及は水素インフラの整備に大きく依存している。日本国内の水素ステーション数は約180か所にとどまり、ガソリンスタンドの約30,000か所とは桁違いに少ない。また、グリーン水素(再生可能エネルギーで製造する水素)の製造コストが依然として高いことも課題だ。

トヨタは乗用車FCVだけでなく、大型商用車、バス、フォークリフトなどへの水素FC技術の展開を進めている。特に長距離トラック輸送では、バッテリーの重量とサイズが制約になるため、水素FCが有利とされる。いすゞ自動車やダイムラーとの協業も進行中だ。

ウーブン・シティ:未来のモビリティ実験場

静岡県裾野市に建設中の「ウーブン・シティ(Woven City)」は、トヨタが構想する未来のスマートシティ実験場だ。自動運転車、パーソナルモビリティ、ロボット、AI、水素エネルギーなどの先端技術を実際の生活環境で検証する「生きた実験室(リビングラボラトリー)」として設計されている。

ウーブン・シティの特徴は、道路が「スピード用」「低速パーソナルモビリティ用」「歩行者用」の3種類に分離された設計だ。これにより、自動運転車と歩行者が安全に共存できる環境を実現する。建物は木造(住友林業との協業)で、屋根にはソーラーパネルが設置され、地中には水素燃料電池が配置されるなど、カーボンニュートラルを体現する街づくりが進められている。

トヨタの「マルチパスウェイ戦略」は、EV・HV・FCV・水素エンジンなど複数の技術を並行開発し、地域や用途に応じた最適なソリューションを提供するアプローチだ。

カーボンニュートラル2050への道筋

トヨタは2050年までにグローバルでのカーボンニュートラル達成を目標に掲げている。この目標を達成するための「マルチパスウェイ」アプローチは、BEVだけでなく、HV、PHEV、FCV、水素エンジン車、そしてカーボンニュートラル燃料(e-fuel、バイオ燃料)対応車を含む多様な選択肢を提供するものだ。

批判者は「BEV一本に集中すべき」と主張するが、トヨタは電力網のクリーン化が進んでいない地域ではHVの方がCO2排出削減効果が高い場合もあると反論する。年間1,000万台を超える販売台数を持つトヨタにとって、世界中の多様な市場と顧客ニーズに対応する「現実的な脱炭素戦略」が必要だという考え方だ。全固体電池の実用化が計画通り進めば、トヨタのEV戦略は一気に加速する可能性がある。

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TechFromJapan編集部

テクノロジージャーナリスト、エンジニア経験者、業界アナリストからなる編集チームが、日本の最先端テクノロジーとイノベーションを多角的にレポートしています。